五條悟と時渡るJK〜過去いま運命論〜(dream)
□16-バケモノとJK
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アミはお姉さんと顔を見合わせる。
「ちょっと出てみるね!」
ウィンクをして、お姉さんはスピーカーで通話ボタンを押した。
「はい。もしも……」
「この馬鹿モン! どこにいるんだ! サトル!!」
耳がキーンとするくらい大きな声が部屋の中に響いた。
アミは思わず耳をふさいで、お姉さんは持ってた携帯を落としちゃってた。
「マドから連絡が入ってると思うが、とっとと渋谷上空のジュレイを始末しろ。お前が他のジュジュツシは足手まといだと言うから、一人で任せたんだぞ!! もしバツジョ不能だったとしても2時間はもたせろ! そうすれば、新宿から応援を向かわせる!」
耳をふさいでも聞こえる大音量の内容に、アミの心臓がまた煩くなった。
「おい、サトル! 聞いてるのか!?」
「あのぉ、サトルくん? のお父様でしょうか?」
お姉さんが携帯を拾いながら、ワントーン声を高くして話しかけた。
「……だれだ?」
低い声で威圧されるように言われても、お姉さんはめげることなく状況の説明をした。
ごじょーさとるが渋谷のゲーセンで倒れていると伝えると、ビックリ声が返ってくる。
「サトルが、倒れた!?」
「はい。今、こちらでサトル君を保護しております」
「……」
電話越しに溜息の音が聞こえる。
「これは大変失礼しました。私はヤガマサミチと申します。そこにいるゴジョウサトルの保護者と思って頂いて構いません。誠に申し訳ありませんが、今一度、そちらの状況を教えて頂けないでしょうか?」
さっきの大声から一転、大人の渋いオジサンの静かな声になった。
お姉さんは安心した顔になって、電話でごじょーさとるの様子について話し始める。
――あの電話の人が、ごじょーさとるの“施設”の大人かー
アミはお姉さんにアイコンタクトで、上に行きます、って伝えてからまた非常階段を上った。
※
もう一回、屋上につくと今度は店長さんが「お帰り」って言ってくれる。
やっぱりアミは「ありがとうございます」を言って、それでミドリちゃんをかける。
ミドリちゃんをかけて見上げれば、先ほどの景色とは全然違う景色があった。
さっきまで何もないと思ってた空に、霧のような雲が広がってる。
渋谷の高いビルのてっぺんにかかるくらい低い位置にかかる雲。
月の位置がなんとなく分かるくらいの薄さで、だからこそ雲の中に“何か”がいるのが分かった。
その“何か”が分かった時、アミは無意識に息を飲みこむ。
大きな大きな真っ白毛むくじゃらの竜みたいな“バケモノ”が、雲の中で気持ち悪くうごめいてるのが透けて見えた。
だけど頭の部分は竜なんて立派なのじゃなくて、ミミズの先端みたいな感じでツルッとしてた。
そのまま見てれば、雲の中の“ソイツ”と目が合った気がした。
目が合ったって言い方はおかしいね。だってソイツには目玉が無かったから。
目玉をくりぬかれたみたいに、真っ黒な穴が2つ。
その穴の奥にカブトムシの幼虫みたいなのがいるのに気づいて気持ち悪さに拍車がかかる。
バケモノが口を開くと、中はみみずの寄せ集めみたいな。細長いヌメヌメした集合体みたいのが見える。
――超ドデカい、大型のバケモノ……
アミは今まで見たことも無いほど大きなバケモノに、開いた口が塞がらなかった。
ーーまさか、これがごじょーさとるが言ってた”見込み”?
ごじょーさとるは今日ずっと空を気にしてた。
このバケモノが出てくるって気付いてたって事?
ーーあんな小っちゃいのに、1人で戦おうとしてたの?
アミたちの施設では考えられない。
少なくともこの感じのバケモノならアミが隊長で、不思議な力を持った子供たち最低十人〜数十人くらいでバケモノ退治をする。
それなのに、9歳のごじょーさとる一人で戦わせようとするなんて、めっちゃブラックじゃん!!ヤバっ!!
「どう? 眼鏡かけて何か変わった?」
店長さんに声をかけられて、アミは現実に戻ってくる。すっかり考え込んでたアミはヘラっと笑う。
「いえ、とくに何も… お天気悪いですね」
「そうだよね。今夜は晴れの筈なのにねー」
のんびり笑う店長さんの様子から、店長さんが雲は見えてても化け物が見えてないのが分かった。
アミはヒーローだけど裸眼じゃ全然バケモノは見えない。
ミドリちゃんをかけてあの雲が見えるようになったって事は、あの雲もバケモノの一部だって事だ。
一般人の中でもバケモノが見えてしまう人がいて、見え方にばらつきがある事は聞いてた。
だから、店長さんはそういう意味じゃ、アミよりバケモノは見える人なんだけど、バケモノ本体までは見えてない人なんだと思う。
――……よし。アミ、決めた!
アミはミドリちゃんを外して、店長さんの方を見る。
「店長さん。ありがとうございました。あの男の子心配なんで先に戻りますね」
「了解。僕はもう一本吸ってから戻るね」
二本目をタバコに火をつける店長さんを残して、アミはスタッフルームに戻った。
※
「あら、お帰りなさい」
スタッフルームにいたお姉さんは、もう電話を終わらせていた。
「お姉さん。アミッ…」
あッ、ヤバッ!――間違えて自分の名前を言っちゃって、慌てて口を閉じる。
もう手遅れかもしれないけど、とりあえず笑顔を作って無理やり誤魔化してみる。
「“私”もう門限なんで帰ります。店長さんからも許可もらえたんで」
「そうなの。連絡先はもう店長に伝えてる?」
「はい。さっき」
「分かったわ。この子の保護者さんもすぐにこちらに来るみたいだから安心して。もう遅い時間になるから、気を付けて帰ってね」
「はーい。お姉さんも帰る時、気を付けてくださいね!」
「うふふ、ありがとう。それじゃあね」
お姉さんとにこやかにお別れしたアミは、クソダサゴルフバックを背負う。
最後に寝てるごじょーさとるをもう一度見る。
気持ちよく寝てるごじょーさとるに、なんとも言えない気持ちになる。
「......」
さっきの決意が揺らがないうちに、アミは部屋から出て行った。
※
ゲーセンの外に出たアミは、大きな大きなため息を吐く。
「ハァァ、マジ、面倒くさい…」
走り出したい気持ちをグッと堪えて、駅に向かって急いで足を動かしていく。
――あんなバケモノなんてアミ知んない!! とっとと渋谷から逃げよう!!
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